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店主コラム

2010年7月6日

「樂茶碗と貴船石の関係は!?」

子供の頃の話。
当時右源太の番頭だった藤井繁義さんが貴船川から大きな貴船石を引き上げ、滑車とテコを使って積み、岩風呂を作ってくれた。
藤井さんは石積みの技術を持ち、氾濫した貴船川を自然石のみを使用した”崩れ石工法”で再生した事もある。
その時、無粋なコンクリートで再生されていたとしたら・・・貴船川は死んでいただろう。
だから、藤井さんは貴船にとって恩人なのである。
また、後年には私の狩猟の師匠となってくれた人で、猪の捕り方や山でのいろいろな知識を伝授してくれた。
昔は右源太の中に住居もあったので、私は毎日その岩風呂に浸かっていた。子供だったから、ゲストが入浴されていても構わず入っていって、おもちゃも持ち込んで遊んだりしていた。
藤井さんは自ら創りあげた岩風呂の貴船石を擦りながら得意げに言った。
「この貴船石いうもんは貴重な石でなあ、庭石だけやのうて樂茶碗の釉薬にも使われているんや。
一樂、二萩、三唐津言うてな、樂焼きは最高の茶碗や。樂さんもよう来て貴船石を集めてはるんや。」
京都の茶人にもあまり知られていない、樂茶碗にまつわるエピソードである。
 成人して表千家の茶を習い始め、千の利休と樂家初代長次郎の事を知った。
舶来のきらびやかな文化がもてはやされていた時代に”詫び”を極めた真っ黒の茶碗を生み出した美意識。その感性に私は憧れを抱き、利休さんと長次郎さんが貴船石を前に、産みの苦しみと喜びを味わいながら黒樂茶碗を創造している姿を思い浮かべる。当時貴船神社の社家だった先祖の鳥居右源太は利休さんや長次郎さんと面識があったのだろうか?
 先日、知人の紹介で樂焼き研究の第一人者・京都市産業技術研究所の横山直範さんにお会いした。横山さんは日本で唯一、樂焼きに欠かせない貴船石を専門に研究して居られる方だ。
横山さんに、貴船石がどうやって出来るのかを聞いた。話は恐竜が活躍していた頃のジュラ紀にまで遡る。
太平洋沖で火山活動により吹き上げられたマグマ(溶岩)が、大気に触れてバラバラになり、海底に堆積する。それが地殻変動により長い時間をかけて(一年間に5㎝)移動し、現在の日本の位置に到達し、押しつけられ、圧縮されて岩となる。それが他の地質層(石灰岩やチャート等)とバウムクウヘンのように重なって断層となり、日本列島をカタチ創ってゆく。そのマグマの断層が地表に露出したところが貴船石の岩山というわけだ。
貴船石は、元はマグマで、日本列島の誕生とも深い関わりがあり、貴船は大地そのものが貴船石の岩山で出来ているということだ!
子供の頃、アンモナイトの模様が入った石を見つけて、貴船は昔は海の底やったんやろうなぁっと今まで思っていたけど、実は海底が盛り上がってきていたということか!
貴船石の断層を伝っていくと、日本列島の上に線として繋がってゆく。
すると・・・これは私の勝手な憶測だが、貴船石の断層地には吉野の天河をはじめ、聖地(パワースポット)と呼ばれる地域が多いではないか!! 海外に目を移せば、セドナの赤い岩山(過去のコラム「パワースポット対決”セドナVS貴船”」を参照して下さい)の成り立ちとも共通性が見えてくる!!!・・・ 
 それにしても、貴船石は祖国の大地の基盤であり、黒樂茶碗の釉薬として日本人の美意識を表現し、また地質的に聖地(パワースポット)と呼ばれる場所にも深く関係している、”最強のパワーストーン”だ!!!
 前回のコラム「鏡リュウジさんと」にも書いたが、昔の人は感覚で聖地(パワースポット)を感じ取り、聖域として信仰してきた。ここ貴船では1600年前に気生根神社が創建され、400余年前、利休さんと長次郎さんもこの地に何かを感じ、詫びの心を表現する素材として貴船石を選んだ。
利休さんと長次郎さんは貴船石を砕いて粉末状にし、それを薄い樂焼きの生地に厚く塗り掛け、1,200度の窯で焼き、取り出して急冷するという手法を編み出し、黒樂茶碗は完成した。 マグマはジュラ紀より長い年月を経て大地を創り貴船石となり、窯で焼かれて再びマグマに戻り、もう一度固まって黒樂茶碗になり、茶人と共に新たな人生(石生?)を生きることになった。
”輪廻転生”
 私はその貴船石を使って、先人にも面白がってもらえるような楽しいものを創ろうと計画している。
子供の頃、貴船石の岩風呂に浸かって実感したコト・・・癒しのようなモノ・・・を感じることが出来る製品だ。
完成が待ち遠しい今日この頃である・・・

追伸
冒頭の”貴船石の岩風呂”に浸ってみたいなぁ~と思われたゲストの方へ。
申し訳ありませんが、現在は客室専用露天風呂がその役目を果たしており、もうお風呂としては使われておりません。(実は、私はこれを書いていて、無性に浸かりたくなってしまった。)
今は玄関に向かって左側に、岩風呂の外観のみを見ることができます。

写真2

我が家の樂茶碗を中心に、手前右から、天河、貴船、大台ケ原の各地で採取した貴船石。
奥左側は、セドナの赤い岩山の石

写真2

川床夜咄の席にて、樂茶碗を用いて茶を点てる私。
お帰りなさい!貴船石さん!!

写真2

現在はこの客室専用露天風呂が岩風呂の代わりを務めています。

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