frame-left
frame-right

店主コラム

2008年 7月16日

「偕老同穴」

先日、茶の師匠が傘寿(80歳)と、金婚(結婚50年)を同時に迎えられ、そのお目出度さにあやかろうと、稽古人世話役によって記念の祝賀茶会が催されました。

師匠・若上人が自祝の茶を点てられる濃茶・薄茶席をはじめ、弟子や社中有志が担当する薄茶・茶箱席と、萬亀楼の若主人が精魂込めた点心席を、半日かけてゆっくりと楽しんで頂き、お祝いしていただこうという趣向です。

お手伝いの合間に、社中有志が担当する茶箱席に立ち寄って、薄茶一服頂戴したとき、妙な?花入れが使われているのを見ました。「なんやろコレ?会記にも花入の事は載ってへんし・・・」
白い筒状の掛け花入は、よくよくみると細かい繊維が格子状に組み合わさって出来ています。その細かさは人間技とは思えんし・・・と見入っていると・・・
「それがカイロウドウケツや」と兄弟子が教えてくれました。

白い筒状の掛け花入

その細かさは人間技とは思えんし・・・

これって何の事かご存知ですか?
辞書によると、「偕老同穴」と書いて、『共に暮らして老い、死んだ後は同じ墓穴に葬られること。転じて夫婦の信頼関係が非常にかたいことを意味する。』言葉で、結婚披露宴の祝辞で良く使われるそうですが、私は全く知りませんでした。
そして、深海に棲む海綿動物の一種で、同名の生き物が存在するとの事。
そうです、この花入れはその生物そのものだったのです!!!
なんでこれがそう呼ばれているかというと、この中にはドウケツエビという海老がカップルで棲んでいて、死ぬまでそこで暮らすからだそうです。
海老はまだ小さいうちに、格子状の網目から自分達で中に入って、外敵から身を守りながら、網目から入ってきたプランクトンを食べて成長し、一生を終えるのです。

偕老同穴

偕老同穴

師匠は、これを沖縄の市場で見つけて、花入れに見立てたそうです。
弟子入りして間もない頃、師匠はベルリンの壁が崩壊したからといって渡独し、自らハンマーを奮い、その欠片を持ち帰って敷瓦(風呂釜を載せる台)を作ってしまったのを見て仰天した私でしたが、今回の茶事にこの花入れとは・・・
師匠に、「なぜこの花入れの事を会記に記されなかったのですか?」とお聞きしても、「忘れとったわ」としかお答えになりませんでした。
あえて記さない・・・やはり師匠は只者では無い。茶人のセンスとはこういうものなのかっ!!!
私は心の中で、「カッコ良すぎるでしょうが!!!」と叫んでいました。

暫くして、全国の門弟が各々の喜寿(70歳)を祝う茶会が国際会議場で催されました。 大先輩の、非常に達者なお姿を見て嬉しく思いました。
昔は、『古希』(70歳)を「人生七十古来稀ナリ」といったそうですが、今では『キンザラ』「近頃ザラである」と呼ぶそうです。
平均寿命と離婚率がウナギ登りのこの国では、「偕老同穴古来希ナリ」でしょうか?

過去のコラム